あまからの「つけナポリタン」

(昔話風に・・・)

相州の国、秦野村に吉川さんという若夫婦が住んでいたとさ。

吉川さんは旨い物には目がなくいつも探していて

小耳に挟むとたとえ仕事を放ってでも遠くまで出かけて食べる・・・。

ある日、駿河の国、富士村に

地元界隈では誰もが知っている旨い物があると聞き、早速馬を飛ばした。

着いて探すと、それはすぐに見つかった。

吉原集落にある「つけナポリタン」という見たことのない物である。

細うどんのような茹で麺を赤い汁に付けて食べるのだが

一口、二口と食べるうちに吉川さんはすっかりその虜になってしまった。

帰ってきてから、それを真似て女房に幾度も作らせたが中々難しく

これぞという味にはならなかった。

困った吉川さんは、行きつけの小衆酒場「あまから」の主人キヨさんにその話をした。

「あまからは」お酒・肴と食事も出す店。

それを聞いたキヨさんは吉川さんの望みを叶えるために

正月休みを返上して富士村へと向かった。

いくつかの店が「つけナポリタン」とやらの

のぼりを立てて客を呼んでいたが

キヨさんは話に聞いていた元祖の茶屋「あどにす」に決めて

エイッとばかりに飛び込んだ。

店ではどこから来たのか、誰から聞いたのかと質問攻めにあったが、

そんなことより「つけナポリタン」をはよう出せ!とは言わずに

半時ほどジッと待った。

 

ひと眠りができそうな時間が経過した頃 女人が盆に載せて運んで来た物は、

まさに噂通りに細うどん風の茹でた麺を皿に盛ったものと不思議な赤い汁の椀であった。

隣席の会話に耳を傾けると赤い正体はトマトという野菜の潰し汁らしい。

キヨさんは一口食べると「これならオラにも何とか作れそうだ」と懸命にその味を覚えた、

「じゃが、わしの口には酸っぱ過ぎだわい」とも思った。

 

秦野村に戻ったキヨさんは思い描いた汁を幾つか作って味を比べた。

出汁を合わせることははっきりしていたので幾つかの出汁で試した。

どれも食べるのには問題ない味ではあったが、

どちらかというと魚の出汁よりも獣の出汁の方が旨い。

牛、豚、鶏・・・ラーメンの出汁で培った経験を元にした濃厚な出汁

トマトの潰し汁との相性が良く、そして一番旨い割合・・・

ヒョイヒョイと思ったほど手を煩わせずに決まった!

あまり酸っぱくなくてコクがある

あまからの「つけナポリタン」の完成であった。

めでたし、めでたし・・・

 

すでにキヨさんは富士村の代官所から

「つけナポリタン」の呼び名を使う許しを頂戴した。

今、さらにその証の のぼり旗を頂けるよう頼んでいるところ。

証が届いたら正式に販売する予定であり

相州では第一号の公的お許しとなる見込みである。

こうご期待!!